はじめに
近年,日本国内では特定小型原付自転車(主に電動キックボード)や,ペダルとモーターを併用可能な高速電動アシスト自転車などの普及率の上昇とともに事故率や違反率の上昇が顕著に表れている[1].これらの事故や違反を未然に防ぐための啓蒙活動として安全教育の講習会などが開催されている.これらの講習会では場所の制約などからVR技術を利用した運転シミュレータなどのインタラクションを伴ったものが増えてきている[2].しかし,これらは自動車や自転車を扱ったコンテンツがほとんどで原動機付自転車を扱ったものが少ない.
そこで本研究では,公道などで運転する際に事故を未然に防ぐために知識の獲得・確認のためにVR空間を利用した交通安全システムとして原動機付自転車のVR運転シミュレータを試作検討する.
提案システム
試作するVR運転シミュレータは,簡単な道路環境上で車両モデルをユーザがコントローラを用いて運転する.そのシミュレータ上で交差点やカーブでの一時停止や徐行運転,法定速度での運転などを体験できる内容とした.交差点での一時停止などあらかじめ定めたルールに沿って行動すると点数が加算されるポイント制を導入した.以下にシミュレータ上の運転風景を示す.
動画1 実験風景映像
システム概要
車両概要
実験で操作する車両(図1)を作成した。この車体にはメインカメラやサイドミラー用のカメラ,ユーザインタフェースが追従している.また,Unityの仕様の問題で曲がるたびに傾くため一定の角度以上傾いた場合に少しずつ起き上がるようにした.
次に,対向車として黒い車両(図2)を用意した.この車両は各判定場所に設置した右折トリガーや左折トリガー,一時停止トリガーに接触した際に各オブジェクトに応じて走行を行う.実験で使用する原動機付自転車よりもはやい速度で走るように設定している.車体には当たり判定をつけているためバイクに車が接触すると転倒し走行できない状態になることもあり得る.

図1 バイク車体

図2 自動運転車両
ユーザインタフェース
実験中にスコア獲得の状況などを理解する必要があるためUnityのCanvasUIを使用し走行中でも情報が見えるように設定したものである.通過したチェックポイントの数を確認するためのチェックポイントカウンタと進行状況や正確さを把握するためのスコアカウンタやスピードメーターを実装している.また,走行中に後ろから車を確認するために左右にサイドミラーを設置し表示している.そして,30km/hを超えると「速度が30km/hを超えました!!」が45km/hを超えると「速度が出すぎです!」と警告文が表示され注意を促している.(図3)

図3 ユーザインタフェース
評価実験
試作システムのVR運転シミュレータとしての有用性と,交通安全に関する知識の普及としての有用性について基礎的な実験を実施した.体験者には事前に免許の有無や運転に関する知識の自信について,また事後に体験のリアリティや操作性,知識獲得の有無についてアンケート調査を行った.今回は免許所有者5名と免許未所有者3名に体験してもらった.実験の流れは以下の画像(図4)のとおりである.

図4 実験のフローチャート
事前説明
以下に本研究で行った事前説明の項目について列挙する.説明した内容は運転する際のルール,スコア獲得の条件と得点,本シミュレーションにおけるMeta Quest 2のコントローラを使用した車体の操作の3つである.また,条件をうまく理解してもらえるように文面を表示しコントローラを実際にもって説明を行った.
- チェックポイントを取得して進む仕組みになっています
- チェックポイントは順番に表示されるのでチェックポイント取得後は次のチェックポイントを見つけるために周りを見て探してください
- 車が2台走行していますがこの車は優先車両になります.交差点等でぶつかりそうな時は先に車を行かせてください
- 事故が発生した場合,車両が走行不可になった場合,VR体験によって酔ったことなどで続行不可と申告があった場合は実験終了となります
- スコアを獲得して運転について評価します
以下はスコア獲得条件の説明である.
- チェックポイント通過時に30km/hで走行しているとスコア(20点)獲得
- 右折もしくは左折をする際に徐行運転(10km/h)をしているとスコア(5点)獲得
- 停止線(一時停止の看板がある場所)で完全停止をするとスコア(10点)獲得
以下は操作方法の説明である.
- アクセル
右コントローラのトリガーボタンと左コントローラのスティックの入力
- ブレーキ
左コントローラのトリガーボタン
- 車体操作
右コントローラのスティックの入力
アンケート項目
- 免許の有無(事前)
- 原動機付自転車の運転経験(事前)
- 知識の自信の有無(事前/事後)
- 獲得スコア(事後)
- VRでのバイクの運転の感覚について(事後)
- 酔いや不快感について(事後)
- 交通ルールについて学ぶことができたか(事後)
結果
アンケートの結果から免許所有の有無に関係なく全員が交通ルールについて学ぶことができ,実際に乗っていると感じることが確認できた.また,運転に自信が持てたという意見や,アクセルやブレーキの感覚は適切であったいう意見から基本的な操作性について一定の評価が確認できた.しかし,コントローラでの操作や無音での体験では没入感やリアリティにかけるという意見も確認できた.
まとめ
本研究ではVR空間を利用した原動機付自転車の安全教育システムとして,原動機付自転車の運転シミュレータについて検討した.試作したシステムは基礎的な運転方法と危険予知の意識を習得・確認できることを目指して設計した.またシステムの利用後のアンケート結果をもとに,実用性や教育性,操作性,没入感,リアリティ性に関する評価を行った.アンケート結果から本システムの実用性や教育性について一定の評価を得ることができた.今後の課題としては,操作性とリアリティ性の向上が今後の重要な課題といえる.
参考文献
[1] 大阪府警察, ”特定小型原動機付自転車について(令和5年7月1日から)”,[オンライン]. Availiable:https://www.police.pref.osaka.lg.jp/kotsu/anzen/12/14403.html
[2] 齊藤玲,内藤弘望,松浦健二,柏原昭博,石井隆司,“事故体験により安全意識を向上させる運転シミュレーションのデザイン,”教育システム情報学会研究報告, Vol.34, No.6, pp.151-154 (2020.3).
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