大阪電気通信大学

R3LIVEにより生成した点群データの 誤差要因の調査と高精度化に関する基礎的研究

概要

 現在,高度経済成長期に建設された橋梁の老朽化が深刻であり,国土交通省による定期的な点検と補修が行われている.しかし,道路橋の40%は耐用年数を超えているため対応が追いついていない.そこで点検に活用するため,図1に示す廉価なレーザスキャナを用いた計測ユニットを試作した.しかし,計測ユニットから得られた点群データにはノイズが含まれており,そのままでは測量への利用が困難な課題が生じた.このような課題を解消するため,既存研究では姿勢と移動軌跡を用いて外れ値とノイズを補正する手法が提案されている.しかし,レーザスキャナごとの特徴によるノイズは補正することができない.そこで,本研究では,計測ユニットにより得られた点群データの計測時にノイズを発生させる要因を調査し,その結果を基に点群データを高精度化する手法を提案する.

図1 開発した計測ユニット

既存研究

 点群データを高精度化する既存手法に「SLAM を用いたハンディ型レーザスキャナの点群データの補正に関する研究」[1]という点の密度とレーザスキャナの視点から点群データを高精度化する手法が存在するが,点密度の低い点群データに適用できない課題がある.そのため,本研究では点密度以外の計測精度に影響を与える要因を調査し,既存手法を改良する.

事前実験

 図 1に示すレーザスキャナとWEBカメラを組み合わせた計測ユニットにより得られた点群データの計測時に発生するノイズを利用している機器やSLAM技術の特徴から検証する.本研究では,計測機器が持つ微小な誤差が累積し,同一地点を計測した場合に大きな誤差が発生するということから累積誤差,レーザスキャナによるレーザ光が強く反射した場合に反射強度が高くなる特性があることから反射強度を誤差要因として選定した.

累積誤差による計測精度への影響と考察

実験方法と評価対象

 図 2に示す学内の廊下を周回しながら計測し,SLAM技術のR3LIVE[2]を用いて点群データを生成した.地上設置型レーザスキャナであるFARO社のFocus3D X130[3](以下X130)で計測したデータが存在したため,最確値として利用する.評価方法は,各点群データを位置合わせし,地点ごとの距離の比較とその地点を結ぶ線のなす角を比較した.

図2 計測した廊下を上から見た図

評価結果と考察

 累積誤差の評価結果の距離を表 1に示す. 表 1より,最確値であるX130[3]の結果と大きくずれる結果が見られる.また,最も結果の悪い地点1は他の地点に比べて計測した場所の道のりが長く,累積誤差による影響が大きいと考えた.

表1 累積誤差の評価結果

 最確値R3LIVE
地点138.20938.497
地点216.31816.266
地点315.95815.989
地点412.80412.785
地点515.67515.679
地点637.35237.306

反射強度による計測精度への影響と考察

実験方法と評価対象

 本実験では,図3に示す学内第二グラウンドの小屋に貼り付けた反射板を対象として,SLAM技術のR3LIVE[2]を用いて点群データを生成した結果と静止状態で三脚を使ってAvia[4]で1分間計測した結果を比較する.評価にはCloudCompare[5]の機能を利用し算出したRMS値(二乗平均平方根)を用いる.本実験でのRMS値とは,擬似的に生成した面と各点との最も近い距離の二乗を算出し,それらの平均の平方根から求められる値で点群データばらつきを示す.

図3 反射板を貼り付けた小屋

評価結果と考察

 反射強度の評価結果のRMS値を表 2に点数を表 3に示す.表 2より,反射強度が上がると計測精度が悪化する傾向が見られ,反射強度が200以上の場合に精度が悪化しやすいことがわかる.

表2 反射強度の評価結果(RMS値)

距離ダンボール面養生テープ面反射テープ面高反射テープ面
静止R3LIVE静止R3LIVE静止R3LIVE静止R3LIVE
10m0.00740.01080.00710.01310.01240.01300.01820.0189
20m0.01010.01110.01220.01290.02080.02370.01640.0182
30m0.01120.01320.01090.01410.02220.02270.01430.0180

表3 反射強度の評価結果(点数)

距離ダンボール面養生テープ面反射テープ面高反射テープ面
静止R3LIVE静止R3LIVE静止R3LIVE静止R3LIVE
10m780,18824,562772,07326,618696,64027439774,95330,959
20m282,05813,365283,10715,244262,91616,753279,25120,881
30m148,9519,05475,8098,920146,8107,691150,8027,357

提案手法

 本研究で提案する手法の流れを図 4に示す.提案手法は,ループクロージング機能と近傍点機能と点群データ補正機能で構成される.入力データは,レーザスキャナで計測した点群データ,計測時の自己位置データと計測時の姿勢データとする.出力データは,高精度化後の点群データとする.

図4 提案手法のフロー図

a)ループクロージング機能

 本機能は,同じ場所を再度通過した時に自己位置を修正する技術であるループクロージングをR3LIVE[2]に実装した.まず,R3LIVE[2]のSLAM技術を用いて推定した自己位置と姿勢を,FAST_LIO_SLAM[6]に入力し,ループクロージング処理を行う.この時、R3LIVE[2]上で計測点と自己位置の紐づけを行っておく.次に,FAST_LIO_SLAM[6]によって推定された自己位置と姿勢をR3LIVE[2]に入力する.最後に,R3LIVE[2]での処理が終わった後,FAST_LIO_SLAM[6]によって推定された自己位置と姿勢から点群データを回転,移動させる.

b)近傍点判定機能

 本機能は,ある点の近傍点の数から,その点が高精度な点かどうかを近傍点の数から判定し,それらの重心を用いて図 5のように補正の基準となる点を推定する機能である.また,事前実験で調査した反射強度の結果から,反射強度200以上の点は計測精度が悪化しやすいことがわかったため,反射強度が200以上の点の近傍点の閾値を低く設定し,近傍点から重心を取ることで,点が分散しやすい反射強度の高い地点でも基準とする点の数を減らすことなく処理する.また,その他の反射強度200以下の点に対しても近傍点から重心を取るが,外れ値の影響を減らすために,対象とする反射強度200以下の点に比重を置く.

図5 近傍点判定機能のイメージ図

c)点群データ補正機能

 本機能は,視線ベクトルと本来の位置に近い点を基準にズレが生じた点を図6に示す矢印のように移動させる機能である.まず,ズレが生じた点と自己位置との視線ベクトルから本来の位置に近い点へ垂線を引く.次に,垂線と視線ベクトルが交わる点と自己位置との距離を測る.最後に,その距離の最頻値を取得し,ズレが生じた点を同じ距離へ移動させる.なお,移動させた場所の近傍点の数が元の位置の近傍点の数よりも少ない場合は,移動させないことで,ノイズの増加を防いでいる.

図6 点群データ補正機能のイメージ図

実証実験

 本実験では,提案手法を用いることで,計測ユニットを用いて計測した点群データを高精度化し,その精度を確認することで,提案手法の有用性を検証する.

実験1

 図 7に示す学内2号館の廊下を対象として検証実験を行った. ループクロージングの効果を実証するため,廊下を4周し,計測した.FARO社のFocus3D X130[3]で計測した同地点の高精度な点群データとループクロージング適用前後のR3LIVE[2]により生成した点群データを比較する.

図7 計測した廊下を上から見た図

 提案手法適用前後の1周目から4周目まで点群データ生成結果の比較を図 8に示す.図 8から,ループクロージングなしの結果では,2周目以降の自己位置推定が大きく上方向にずれていることがわかる.それに対して,ループクロージングなしの結果では,2周目以降も問題なく点群データを生成できていることがわかる.

図8 ループクロージング適用前後の比較

実験1の評価方法

 ループクロージング適用前の2周目以降の結果は図 8からも見られるように大きく1周目とずれた.このため,本実験では,ループクロージング適用後の結果とループクロージング適用前の1周目の結果,最確値としてForcus3D X130[3]で計測した高精度な点群データを評価した.また,図9に示す地点ごとの距離を比較した.

図9 計測した廊下を上から見た図

実験1の評価結果

 地点ごとの距離の評価結果を表4に示す.表 4の結果から,地点1ではループなしの結果と1周目の結果で0.239mの大きい差が出たが,他の地点では,大きく差がでることはなかった.これは,地点1で計測開始地点の前後の距離を測っていることに起因すると考えた.この結果から,ループクロージングをR3LIVE[2]に適用した場合の有用性を確認した.

表4 地点ごとの距離の評価結果

評価
箇所
1周目2周目3周目
距離最確値との差距離最確値との差距離最確値との差
地点138.1600.04938.0600.14938.0820.127
地点216.2460.07216.2360.08216.2240.094
地点315.9550.00315.9700.01215.9810.023
地点412.7790.02512.7820.02212.7650.039
地点515.6790.00415.6900.01515.6690.006
地点637.2970.05537.2080.12737.2080.144
評価
箇所
4周目ループ適用前X130
距離最確値との差距離最確値との差距離
地点138.0970.11238.4970.28838.209
地点216.1750.14316.2660.05216.318
地点316.0010.04315.9890.03115.958
地点412.7640.04012.7850.01912.804
地点515.6230.05215.6790.00415.675
地点637.1530.19937.3060.04637.352

実験2

 本実験では図10に示す反射強度の高い看板と図 11に示す反射強度の高い反射板を張り付けた小屋を対象として,計測ユニットを用いて計測したデータを提案手法を用いて高精度化する.

図10 反射強度の高い看板

図11 反射強度の高い反射板

実験2の評価方法

 提案手法で高精度化した点群データと既存手法の点群データから高さ1m幅1m奥行0.5mで平面を切り取り,CloudCompare[5]を用いてRMS値を算出する.点群データのばらつきを示すRMS値を比較し,精度を評価する.

実験2の評価結果

 RMS値での評価結果を表5に点数を表6に示す表5の結果から,看板を対象にした点群データのRMS値は,提案手法のRMS値は0.968cmであり,従来の手法より精度が上昇していることがわかる.また,反射板を対象にした点群データのRMS値は,高精度化後の点群データが0.974cmであり,看板の結果と同様に従来の手法より精度が上昇していることがわかる.さらに,両方の結果でRMS値1cmを切ったことがわかる.これらの結果から,提案手法を反射強度の高い物体に適用した場合の有用性を確認した.

表5 RMS値の評価結果

評価対象元点群従来の手法提案手法
看板1.946cm1.770cm0.968cm
反射板1.980cm1.250cm0.974cm

表6 点数の評価結果

評価対象元点群従来の手法提案手法
看板39,171点39,226点39,268点
反射板9,022点9,041点9,040点

おわりに

 本研究では,計測ユニットにより得られた点群データの計測時にノイズを発生させる要因からアルゴリズムを改良することで点群データを高精度化する手法を提案した.そして,実験により,計測した点群データを高精度化できることを確認した.ただし,本研究で対応できていない他の誤差要因もある.そのため,今後は,他の誤差要因にも対応し,アルゴリズムを改良することで,より正確な点群データの高精度化を目指す.

参考文献

[1] 中原匡哉,塚田義典,梅原喜政,西田義人,清水則一,田中成典,梶谷舞人:SLAM を用いたハンディ型レーザスキャナの点群データの補正に関する研究,情報処理学会,第86回全国大会講演論文集,Vol.86,No.4,pp.805-806,2024.

[2] Jiarong Lin, Fu Zhang : R3LIVE A Robust, Real-time, RGB-colored, LiDAR-Inertial-Visual tightly-coupled state Estimation and mapping package, IEEE International Conference on Robotics and Automation (ICRA), 2022.

[3] FARO : FARO®LASER SCANNERFOCUS3D X 130, https://downloads.faro.com/index.php/s/agsQFPqyXfWTgHT, 2025.1.16.

[4] Livox : Avia, https://www.livoxtech.com/jp/avia, 2024.12.16.

[5] Daniel Girardeau-Montaut : CloudCompare – Open Source project, http://www.danielgm.net/cc/, 2023.11.30.

[6] Giseop Kim : FAST_LIO_SLAM. https://github.com/gisbi-kim/FAST_LIO_SLAM, 2025.1.16.

作者プロフィール

梶谷舞人

大阪電気通信大学総合情報学部情報学科4回生

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